日韓アジア基金 代表理事 江本哲也



2003年12月に学校を初めて訪問してきました。
朝の10時ごろだったでしょうか、学校に到着したら教室の中から子どもたちの元気な大きな声が聞こえてきました。黒板の前にかわるがわる子どもたちが出て、指示棒で指された文字をみんなで一斉に朗読している声でした。この声を聴いたとき、目頭にジーンとくるものを感じました。
 「開校前の準備、そして開校後もいろんなことがあったが、やっとここまで来たか。」という思いと、子どもたちの一生懸命に勉強している姿に感動し、この喜びを皆さんに伝えなくてはならないと教室の中に入って夢中でシャッターを切りました。
今では子どもたちは学校に行くことが楽しくてしょうがないと言っています。また村の人たちはこの学校を今では誇りにしています。ここから小学校にいける子どもも出てきました。
これもひとえに皆様の日頃の貴重なご支援の賜物と深く感謝しています。
学校が2年目を迎えるにあたり、この子どもたちのために益々頑張ってやっていきますので一層のご支援をよろしくお願いします。



日韓アジア基金・カンボジア事務所 安田所長
2003年は、アンロンコン・タマイ村での未来学校開校準備に始まりましたが、3月の開校式を経て、洪水や暴風雨といった問題があったにも関わらず、ほぼ予定通りの形でプロジェクトを進めることができました。
11月には146名の在籍児童のうち、69名が1冊目の教科書を終え、2冊目の教科書に進みました。これはテストで振り分けたのではなく、基礎的な文字の読み書きができるかどうかを児童ひとりひとりについて担当の先生に判断していただいた結果です。5クラスのうち、2クラスが2冊目の教科書、3クラスが1冊目の教科書を復習を交えながら学習しており、3月末にあらためて学習進度に合わせたクラス編成を行う予定です。テストは6月、9月、2月に実施され、これまで学んだことをきちんと覚えたかどうかの確認も行われています。
カンボジアでは9月末が新学期に当たりますが、未来学校から隣村にあるルセイサン小学校に17名の児童が編入することができました。(うち2名は、その後未来学校へ戻り、1名は地方の学校へ転校。)

編入学年別で見ると、2年生と3年生が6名ずつで最も多く、1年生と5年生が2名ずつ、4年生が1名となっています。5年生へ編入をした2名など、アンロンコン・タマイ村へ移転する以前に小学校へ通っていたことのある子どももおりましたが、未来学校での短い学習期間にも関わらず、比較的高い学年に編入できたのは、非常に喜ばしいことだと思います。
間もなく開校1年を迎えますが、2年目はより充実した授業に取り組んでいきたいと思います。





写真にある教科書ですが、これは日本の文部科学省にあたる教育・青年・スポーツ省によって編纂されたもので、文字を学ぶところから始まり、読み書きと簡単な計算を含んでいます。教科書は4冊あって、全部で小学校の低学年で学ぶ内容のほとんどがカバーされるようにできています。表紙には、田舎の村で女性が字を学んでいる絵があります。これは、この教科書がこれまで学校へ通う機会のなかった大人の方にも多く使用されているためで、特に識字率の低い女性の参加を促しています。

1冊目は、クメール語の、33の子音文字と23の母音文字の組み合わせで表される文字の学習に重点が置かれています。教科書には、身の回りにあるものの絵が出ていて、絵の下にその名前が書いてあります。

写真ではおじいさんの絵の下におじいさんを意味する「ター」という言葉が成り立つ仕組みが示されています。授業では、先生がこれを「子音のtと母音のaで、ター」といった具合に読み、子どもたちがそれにつづいて唱えながら文字を覚えていきます。

2冊目からは、足し算引き算などの算数と、これまで習った文字を使って実際に文章を読む練習が行われます。算数は日本の小学校同様に、2本の鉛筆と3本の鉛筆を足すと5本になるといった具合に日常のものを使った足し算から始まり、筆算へと発展していきます。また同時に、天秤量りの使い方や時計の見方などの学習もおこなわれます。






読みの練習では、教科書が大人の学習者も対象としているため、日本とは違ってお話というよりも、保健衛生、労働、麻薬やエイズといった社会問題をテーマにしたものが多く見られます。(未来学校では、この点も考慮し、毎週金曜日を「お話の日」として、先生が子どもたちに昔話などを聞かせる学習を進めています。)
この教科書の特徴は、上の例でも分かるように、学習教材がカンボジアという風土に根ざしたものになっている点です。「文字を学ぶ」という部分だけを見ても、その例に使われているのがサトウキビや寺など日常生活に緊密に関わりのあるものですし、算数でも肉や魚の買い物の際に必要な天秤量りの使い方を学びます。何よりも麻薬やエイズといったカンボジア社会が抱える問題を読み物のテーマとして扱っているところが、日本の教育と大きく異なる点だと思います。

「字が読めるようになったからといって、彼らの生活はどう変わるんですか?」という質問を受けることがありますが、教育の重要性は、単純に文字や「3+2=5」といった計算方法を覚えることにあるのではなく、子どもたちがこうした道具を使って、自分の生活を切り拓いていく上で必要な力(知恵、知識)を身につけていくというところにあるのだと思います。未来学校での勉強は、そうした目標に向けて、少なからず貢献できるものと確信しています。



 上に述べましたように、2003年9月末に、17名の子どもたちが未来学校から隣村の公立小学校へ編入することになりました。未来学校がつくられた背景には、子どもたちが学校へ通えない、または通わないという状況があった訳ですが、これらの子どもたちが公立小学校へ通うようになった背景にはどんな変化があったのか、聞き取り調査の結果を交え報告したいと思います。
まず、小学校へ編入の理由について聞き取りした結果、以下のような理由が挙げられました。
文字が読めるようになったから(5)
友だちが行っているから(4)
両親が教育費を出してくれるから(2)
その他(以下、具体的に)
 兄弟姉妹が編入するから
 NGOが経済支援をしてくれるから
 以前、病気で退学したが、健康状態がよくなったから (回答者数12名、複数回答)

プロジェクトの事前調査における聞き取り調査では、不登校の理由として「教育費用が捻出できないから」というものが一番大きな理由となっており、この調査に即して考えれば、住民の経済力が改善されない限り、子どもたちは小学校へは編入できないはずです。しかし、今回の調査の結果を見ると、経済面の改善に関するものは3名にすぎず、むしろ、「文字が読めるようになったから」ということが一番大きな理由になっているのは非常に興味深い結果と言えるでしょう。「文字が読めるようになったから、(よりレベルの高い)小学校へ通いたい」という答えは、正直私にも驚きではありました。プロジェクトの副産物的な効果として、「子どもたちの向学心が強まる」ということが期待はされていましたが、今回の結果にもこういう気持ちが関係していると考えられます。
私たちが目標とするところは、(1)識字教育を提供し、(2)小学校への編入の準備を行うというものです。未来学校はこの子どもたちにとって滑走路のような役割を果たすもので、彼らがこの滑走路を駆け抜け、将来自分の力で飛び立てるように手助けをしていくことが私たちのプロジェクトなのだと思います。今後も、親御さんや村の方々ともこうした考えを共有し、協力しながら頑張っていきたいと思います。



カンボジア事務所職員 ポット・リティ
 私が日韓アジア基金での仕事をするようになってから、早1年が過ぎました。アンロンコン・タマイ村での活動には調査段階から関わらせていただき、当時は調査と開校準備が主な仕事でしたが、現在は学校運営全般に関する仕事や教育局などとの連絡を担当しています。

 今回、私がお伝えしたいことは、この1年弱の活動の成果についてです。昨年4月の開校以来、未来学校の子どもたちの進歩には目を見張るものがあります。開校して間もない頃は、出席率も低く、子どもたちは黙って椅子に座っているのがやっとというような状況でした。親御さんの間でも、教育の重要性に関する認識が弱かったように感じられました。

学ぶことの楽しさを知ったのでしょうか、今は出席率もよくなっていますし、簡単な読み書きや計算をすっかりマスターした子どもたちも沢山います。親御さんたちの意識にも変化が見られ、中には学校まで自分の子どもの様子を見に来る方、子どもが休みだと言う日に先生にそれが本当かどうか確認しに来る方などもいらっしゃいます。少しずつではありますが、地道に活動すれば結果が出るのだと、最近あらためてこの活動に対する自信が出てきました。

 私自身子どもを持つ親ですし、日頃から教育の大切さについて考える機会も多くあり、こうした活動が日韓の会員、ドナーの皆様の協力によって行われていることに感謝の気持ちでいっぱいです。今後も「子どもたちに教育を与えるのは大人の責任である。」という信念のもと、会員やドナーの皆さんの協力を得ながら、日韓のスタッフと力を合わせ子どもたちのため、カンボジアのために努力していこうと考えております。皆様のご協力をよろしくお願いします。



9.村の災害
カンボジアでの活動に戻る
11.ロータリークラブ